「積立金不足」をうめるのは「未来への期待感」
鈴木亘先生の、「年金問題は解決できる!」の感想文も、今回が最終回です。
前回のブログでは、公的年金制度において、すでに生じている、
「750兆円の積立金不足」の補填方法について、述べました。
鈴木先生は、まず
「相続税の徴収強化」をあげられています。
次に、2番目の方法として、
「積立方式年金事業団債」を発行する方法も、紹介されています。
おはようとらちゃん / yto
事業の黒字を担保に資金調達
前回のブログで紹介した「積立方式年金事業団」は、
将来に向かって新しく年金の積立を行う組織です。
当然、最初のうちは収入大で、支出ゼロの事業なので、事業は黒字になります。
その黒字と、将来の所得税を担保にして、債券市場から資金調達をします。
そして、そこで調達された資金をもって積立金の補填を行い、
現在、年金を受け取る方にお金を配分します。
ただ、この方法に関する見方は、2つに分かれると個人的に考えています。
- 肯定的な見方→「世間はオレ達を信じてしてカネを託してくれる!」
- 否定的な見方→「結局は借金かよ!?」
資産と負債は表裏一体の関係
もっとも、現行の公的年金制度をそのまま続けるにせよ、
鈴木先生が提案される、
「積立方式年金事業団」と
「年金清算事業団」を導入するにせよ、
「750兆円の積立金不足」という、
負債の手当てという問題は、常について回ります。
(つまり、日本に住んでいる限り借金からは、誰も逃げられないということ)
このように「負債」、「負債」と書くと、まるで
負債が疫病神のように見えますが、
個人的には、そういう風には考えていません。
社会全体で考えると、「誰かの資産は、誰かの負債」で、両者はワンセットの関係だからです。
(会計の世界で使われている
貸借対照表のイメージ)
問題は、「片割れの資産」を持っている人が、「片割れの負債」を持っている人に対して、
「コイツは、負債が返せなくなるじゃないか?」ということを
「思い込んでしまう」
ということでしょう。
「負債が返せなくなった」という確定した事実も、もちろん重要ですが、
ここでは、その事実よりも先に、
「思い込んでしまう」ということがポイントです。
人はそういう心理状態に陥ると、他人に対して、お金を貸そうとは思わないでしょう。
また社会全体がそう思えば、
「積立方式年金事業団債」を、誰も買わないでしょう。
(この心理状態の、逆バージョンがいわゆる
「バブル経済」)
解決方法は未来への「期待」
逆に、資産側が、負債側に対して、
「コイツにカネを貸しても(出資しても)大丈夫。必ず利子(配当)をつけて返すはずだ!」
と思ってしまえば、人は、他人にお金を貸します。
債券市場や資本市場で、それなりのお金を、それなりの条件で
調達することが、できるでしょう。
今回は、4回シリーズのブログで、公的年金問題について書いてきました。
管理人は、この問題を解決するためには、
- 『「お金を持っている側」が「お金を持っていない側」に対して、見返りの「期待」を込めて、お金を貸す(出資する)ことができるか?』
つまり、
「未来への期待感」をいかに社会全体で醸成するか?ということに尽きる、と考えます。
「ほどほどの期待感」が必要
今回は、たまたまテーマが、
「公的年金問題」でしたが、
テーマを
「企業」に置き換えても、同じことが言えると思います。
以前、
戦後から高度経済成長期において、
「日本のどの部門がおカネを持っていたか?」という指標を見たことがあります。
その指標で、
「企業部門」を見ると「資金不足」の状態であったことが分かりました。
それに対して、
「家計部門」・「金融部門」などは、「資金超過」の状態にあり、
「企業部門」に対して資金を供給し、
「日本全体でほぼチャラ」という印象を受けました。
(あと、「外国部門」とかもあったと思いますが、浅学にして国内部門しか見ていません)。
70年代半ばに生まれた管理人は、「高度経済成長期の日本」と聞くと、
「金持ちの国」というイメージを抱いていましたが、
決してそうではなかったことが、最近ようやく分かってきました。
実は、
「企業部門」は成長を担保として、負債(や出資)などで
他部門からカネを回してもらっていたことが、この指標を見て、理解できるようになりました。
(ちなみに、ここ最近の「企業部門」は「資金超過」の状態にあることもついでに分かった)。
もちろん管理人は、
「期待」の効用だけを考えるもではありません。
「期待」の先にある、
「見返り」と
「リスク」をどのように測るか?ということも、
同じくらい大切だと考えています(そうでないと
「バブル経済」になってしまいますから)。
そのためには、鈴木先生が、本書で述べられたように、
日本全体で「750兆円の積立金不足」という、基本的な事実を明確にされたことは、
大変意義のあることだと考えています。
【関連エントリ】
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その1
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その2
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その3
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【参考文献】
ジェームズ・スロウィッキー
「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)
