積立方式による年金制度の提案
前々回、前回と「公的年金の現状」と「公的年金の将来」について、書いてみました。
特に前回のブログの「公的年金の将来」では、
- 将来の年金(給付)= (賃金 ×上昇率2.0% × 年数) + 保険料率(同じ) + (積立金 × 利回り2.5% ^ 年数)+ 税金
という計算式をあげ、年金給付の原資である、公的年金の積立金が急速に減少している
現状について、本書の内容と合わせて紹介しました。
床で遊ぶとらちゃん / yto
それで将来の年金給付はどうなるのか?
ここまで書くと、「じゃあ年金制度はどうなるの?」ということになります。
著者の鈴木先生は、現行の年金(給付)の水準と法制度が続くと仮定して、
以下のようになることを示されています(P38)。
- (厚生年金)積立金が2031年度に枯渇
- 「2017年に18.3%で固定」とした厚生年金の保険料率を「2035年に24.8%で固定」に修正
ちなみに2については、鈴木先生の見解ですが、
1については、厚生労働省の見解に基づいています。
厚生労働省 第15回社会保障審議会 年金部会(6ページの注2)
「年金清算事業団」の発足
一見、複雑そうに見える公的年金の問題ですが、
本質的な問題は、「750兆円の積立金不足」※というところに行きつきます。
- 労働者予備軍(子ども)を増やして、保険料徴収の対象者を増やす
- 保険料率をあげて保険料収入を増やす
- 積立金残額分の運用成果を利回りをあげる
これらは、「積立金の不足」を補うための、一つの手段となります。
ですが、そもそも、これらの手段を講じるためには、不足している積立金について、
まず最初に、「どのように」補填していくのか、という視点が必要になります。
その視点を確保するために、鈴木先生は、
「積立方式年金事業団」と「年金清算事業団」の方式を提案されています。
特に後者については、過去にJR(旧・国鉄)で行った実績がある方式です。
- 「積立方式年金事業団」
将来、年金を受け取る人たちのために、個人別の積立口座を開設し、
それぞれが、将来に所得補償の必要が生じたときに、「個別」に取り崩す。
- 「年金清算事業団」
すでに年金を受給している人たちや、過去に年金支給の対象となった、
保険料を支払った実績のある人たちに、確定済みの年金(給付)を支払う。
大ざっぱな感じですが、世代別にカテゴライズすると、次のようなイメージになると思います。
- 子ども→「積立方式年金事業団」のみ加入
- 若年・中年齢層→「積立方式年金事業団」と「年金清算事業団」の2つに加入
- 高年齢層→「年金清算事業団」のみ加入
積立金不足はどうやって埋めるの?
ただし、この方式でも、なお問題が残ります。
過去から現在にかけて築き上げた、「750兆円分の積立金不足」について
「誰が」、「どのように」、負担するのかという問題です。
そこで鈴木先生は、負担の原資の一つとして、「相続税の徴収強化」をあげられています。
「生きている人」には課税をしないが、「死んだ人」には課税するという考え方です。
"現在、我が国では、毎年約40兆~97兆円もの相続資産(不動産を含む)が発生していると推計されています。そのうち、相続税(贈与税を含む)として徴収できているのは、わずか1.4兆円程度にしか過ぎません。"
(P145 第5章「「積立方式移行」で年金問題は解決できる」)
ちなみに、「相続税の徴収強化」というのは、社会保障制度改革の一つとして、
取り上げられることもある、「ベーシック・インカム」においても、その財源として、注目されています。
※前回のブログでは、「750兆円」の部分を「800兆円」と書き換えています。
750兆円は、厚生労働省が、2009年の公的年金の財政検証に用いた値です。
800兆円は、著者が本書の出版に合わせ、最新のデータで計算した値です(P129)。
(つづく)
【関連エントリ】
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その1
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その3
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その4
2050年の世界 英『エコノミスト』は予測する
今週の週刊ダイヤモンド2012年12月8日号
やさしい「ベーシック・インカム」
おちゃらけミクロ経済学 ベーシックインカムと「もしもボックス」
【参考文献】
新田ヒカル・星飛雄馬 やさしいベーシック・インカム サンガ
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