2013年7月31日水曜日

インフレで私たちの収入は本当に増えるのか? デフレ脱却をめぐる6つの疑問

金融政策に無縁な人におススメの金融政策本







サブタイトルにある6つの疑問が、そのまま本書を構成する章になっています。


  • 疑問1 日銀がお札をすれば、財布の中の1万円札は増える?
  • 疑問2 問題はデフレで、その克服のためにインフレを目標にする?
  • 疑問3 日銀が国債を引き受けるとハイパーインフレになる?
  • 疑問4 円安誘導のインフレで日本経済は復活できる?
  • 疑問5 インフレターゲットを採用すればインフレになる?
  • 疑問6 日本国債は日本人が保有しているから売られない?




Yield to Maturity / Digital Sextant





インフレだけで経済がよくなることはない





6つの疑問についてまとめて答える形で出した、本書のテーマは次のとおりです。



  • 「インフレを喚起すれば、日本の経済はよくなるか?」
  • 「インフレによって物価は上昇し、一般の労働者の給料も物価の上昇分よりも少しは上がるか?」



結論は、「そんなことはない」。


"目標は「インフレ」ではなく、「需要増」である。「デフレ」「インフレ」は確かに貨幣的減少という側面もあるため、日銀の金融政策で何とかなると考えがちだ。しかし日本が直面している問題は、実体経済において需要が弱いことである。名目金利がすでにゼロのなかで、金融政策が需要創出のためにできることには限界がある需要増加のために実施すべき政策とは、企業や個人が将来に明るい希望をもってリスクをとれる世の中を創ることである。"


(P41 疑問2 問題はデフレで、その克服のためにインフレを目標にする?)




テキストの「金融政策」の章を読みましょう





平たく言えば、日本経済を良くしようと思うと、「他にもいろいろせなあかんよ~」ということです。
そのため著者は、日本の金融政策について広く知ってもらおうと、平易な表現が取られています。
あえて金融政策の門外漢の人に向けて、発信しているような感じです。



クルーグマンでも、マンキューでも、スティグリッツでも、何でも良いから、
「マクロ経済学」テキストを、一冊読みこなしていれば、著者の意図が、
より汲み取りやすくなるでしょう。



クルーグマンのテキストはこの3冊の中でも分量が少なくて、手っ取り早く
本書を読みこなしたい人には、特におススメ。





【参考文献】


ポール・クルーグマン クルーグマンマクロ経済学 東洋経済新報社





グレゴリー・N・マンキュー マンキュー経済学〈2〉マクロ編 東洋経済新報社





ジョセフ・E・スティグリッツ スティグリッツマクロ経済学 第3版 東洋経済新報社











2013年7月30日火曜日

2020年、日本が破綻する日 危機脱却の再生プラン

「最善の策」ではないが「次善の策」






タイトルに「破綻」とあります。これだけ聞くとおどろおどろしいイメージが、
いろいろと浮かびそうですが、まず最初に「破綻」の定義が、キッチリとなされています。


"仮に財政破綻が起これば、長期金利は上昇しインフレーションとなる。すると、政府のみでなく、借入金を抱える企業や住宅ローンを抱える家計も資金繰りが困難になる。(中略)その結果、為替レートは暴落し、石油や食料品などの輸入物価も急上昇していく。するとインフレーションや金利上昇は加速…。"

(P5 はじめに)


以前当ブログで取り上げた国家は破綻する 金融危機の800年によると、
近代に入ってからの日本は、すでに6回も「破綻」をしています
「破綻」は、近代以降の日本にとって、はじめてのことではありません。
すでに「実績」をつくっているだけに、またやるかもしれないという、ひねた考えもできる)






Ghost Town of Rhyolite, Nevada (10) / Ken Lund







結構込み入ってて「次善の策」も難しい





で、2020年に財政破綻が起こりそうな、一番の原因が、年金・医療・介護の
社会保障における1,150兆円の「暗黙の債務」(P59)だそうです。



とはいっても、本書の最も重要なところは、この「暗黙の債務」によって
崩壊寸前の社会保障制度を、いかに再生するかというところです。



ただし、日本の社会保障制度について、はじめて知る人にとっては、この内容は難しいかも…。
「賦課方式」とか「強制積立」とか「保険者・被保険者」って何?といういかめしい漢字を、
一つ一つ理解することからはじめていかないといけなさそうなので。




「次善の策」を理解するか、共倒れを回避するか?





「日本の年金制度はヤバそうなのだけどどうしたらいいのか分からん!」
というひとは、学習院大学・鈴木亘先生の
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革をおススメします。
こっちの方が分かりやすい。



あと「日本の年金制度はヤバそうなので、できるだけ距離をとっておこう!」と考える人は、
橘玲さんの、貧乏はお金持ち―「雇われない生き方」で格差社会を逆転する
が参考になります。日本の年金制度がもつ根本的な欠陥に、
巻き込まれないための方法が書かれています。




【関連エントリ】


「金持ち父さん」への道~ハイブリッドビジネスパーソン特集
国家は破綻する 金融危機の800年
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その4
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その3
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その2
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その1









2013年7月29日月曜日

WILLPOWER 意志力の科学

単なる精神論で終わらせない「意志力」について









意志力は筋肉のように疲労し、また鍛えることができるというのが本書の主旨です。
P352に訳者解説でその要約がのっているので、そのまま抜粋します。


  1. 意志力は筋肉のように披露し、また鍛えることができる
  2. 意志力の出所は一つであり、そのエネルギー量には限りがある。
  3. 意志力が弱まると、かえって刺激や欲望を感じやすくなる
  4. 大切なのは意志力をいかに使わないかだ
  5. 意志力をすぐ強くできる方法がある
  6. 自己コントロール力は、記録を公開したり、友人とともに進める方が高められる
  7. 計画は立てるだけで効果あり
  8. 「絶対やめる」ではなく、「あとでやろう」と思うとやめられる
  9. 先延ばしを防ぐコツがある
  10. 一つうまくいけば、あらゆる面に及ぶ
  11. 記録はこまめにつける
  12. よい習慣をつける、こつこつ続ける




「ツール」を使って「意志力」を観察する!






これだけ書くと書店に平場に積まれている、ありふれた自己啓発の本ように見えます。
しかし、本書は、ひとつひとつのポイントが、大変具体的です。



著者のバウマイスターさんは、心理学者なので、自分の研究室の大学生・大学院生を
使っての実験はもちろんのこと、他にも


  • 19世紀の探検家の記録調査(第7章 探検家に秘訣を学ぶ)
  • 自己管理アプリを作ったベンチャー企業へのインタビュー(第5章 自分を数値で知れば、行動が変わる)


など、意志力を「目に見える形」で表そうとしています。




IMG_9835 / Monica's Dad





「意志力」は科学なので他分野へも応用可能






あと、学問として多少分野が異なりますが、
以下にあげる【関連エントリ】は、バウマイスターの考えとの共通項があるように思います。
一緒に読むと心理学行動経済学医学への興味がいっそう広がるでしょう。




【関連エントリ】
影響力の武器第二版 なぜ、人は動かされるのか
脳を鍛えるには運動しかない!-最新科学でわかった脳細胞の増やし方



【参考文献】


ダン・アリエリー
予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 増補版
早川書房






イアン・エアーズ
ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣
文藝春秋






2013年7月26日金曜日

統計データはおもしろい!ためになる!

統計データとの「正しい」付き合い方



統計データというと「客観的」イメージがあるかもしれません。
しかし、統計データも人間が作ったもの、それを紹介する文章もまた人間がつくったもの。
どうしても作ったい人(書いた人)の恣意性が、反映されます。従って、


  • 自分で統計学の基礎概念(平均・分散・回帰分析など)を理解する
  • データの基礎となている一次データのソースはどこか把握する
  • 反証する(その主張を否定する仮説をつくって、否定できなければ「とりあえず」支持)


ということを頭に入れておく必要があると思います。




Ben Taylor San Jose Giants Using Gameday / IntelFreePress





統計データはおもしろい!―相関図で分かる経済・文化・世相・社会情勢のウラ側









「統計データ」を使って「○○○なことが言える」ということのサンプル集。
「○○○なことが言える」は、すべて相関散布図で表現されています



予め、冒頭にある相関散布図の説明を読んでおけば、各サンプルの意味も分かり、
ケムにまかれるということはないでしょう。



また、本書から少子化と出生率のデータを眺めていると、
少子化と子どもの貧困は、相関があるような気がします。



高齢化対策に対する教育費公的負担を含む少子化対策の相対ウェイトと出生率(先進国間比較)
子どもの貧困率、当初所得と再分配後の比較



前者は「子供向けの支出が少ないから、子どもが少なくなる」データで、
後者は「所得の再分配を行ったら、子どもの貧困率が増加する」データ。





統計データはためになる!―棒グラフから世界と社会の実像に迫る










こちらも取り上げられるトピックスはランダムですが、
データは全て棒グラフで表現されています。



棒グラフは高さ、大きさ、金額などの数量をストレートに表現できるので、
散布図よりも実感的で分かりやすい主張をするに向いています。



【関連エントリ】


子どもの貧困 ― 日本の不公平を考える



【参考文献】


マイケル・ルイス マネー・ボール (RHブックス・プラス)







2013年7月25日木曜日

テクノロジーとイノベーション 進化と生成の理論

読みやすい本ではないがテクノロジーについて真正面から説明







以前、機械との競争という本について、取り上げてみました。
タイトルの通り、機械が人間の職域に侵出しはじめていることを
いろいろ説明して、それにどう対処するかというお話です。



ただ、この方のブログにある通り、じゃあ「これから人間はどうすればいいの?」
ということについては、踏み込みがイマイチな気がしました。そこで読んでみたのが、本書です。




Technology: Headlights / Tom Mascardo 1





テクノロジーを読み解く3つのカギ





当然、これを読めば失業対策はOKとか安定した雇用が確保されるとか、
そういうものは掴めませんが、機械(テクノロジー)が進化したときに、
人間がどういう風に付き合うべきか、歴史の実例を交えてヒントを提示してくれています。



  1. テクノロジーは要素の組み合わせであり、
  2. その要素自体がテクノロジーであり、
  3. 自然現象の利用である



航空機制御や電気的現象など、「理系」な難しいことも書かれていますが、
この3つのポイントを押さえておけば、人間の「取るべき次の行動」が浮かんでくるように、
内容が構成されています。



【関連エントリ】


機械との競争










2013年7月24日水曜日

「金持ち父さん」への道~ハイブリッドビジネスパーソン特集

ロバート・キヨサキも納得(?)日本版・「金持ち父さん」



金持ち父さん貧乏父さん は、具体的な部分がぼかされたり、日米の制度が違ったりして、
日本人にとってすこし分かりにくかったりするのが難点です。



今回、ご紹介するのは、金持ち父さん貧乏父さん の現代日本版というところでしょうか。
 これら3冊は、その分かりにくい部分をより分かりやすくしてくれています。





ノマド。 / Atsushi Tadokoro





ノマドと社畜 ~ポスト3・11の働き方を真剣に考える







本書の結論を言えば、


  • ノマド
  • 社畜


の長所を取り入れて、どちらでも働けるようにしよう!というのが結論。
安易なノマドの礼賛や社畜の推薦は一切、行われていません。
どちらをするにも、「覚悟せよ!」ということです。



でもどうやって?




貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する







"「誤解のないように言っておきたいのだけれど、私はこの本でサラリーマンという生き方を否定したいのではない。世の中に蔓延する「社畜礼賛」が薄気味悪いだけだ。"

(P5 まえがき)



「安易なノマド礼賛が薄気味悪いだけだ」とは、明確に書かれていませんが、
上のノマドと社畜 ~ポスト3・11の働き方を真剣に考える と主旨は似てます。
こちらは、ハイブリッドな生き方の一つの方法として、マイクロ法人の設立を提案しています。



マイクロ法人を設立するとサラリーマの時には別に理解しなくてもよかった、
日本の社会保険制度、税制度、金融制度について勉強することになります。
本書ではそれらの概要について、説明してくれてます。
もちろん「法人」を設立するならば、自分でウラを取りましょう。




現役経営者が教えるベンチャーファイナンス実践講義









貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する は、
マイクロ法人の設立ということで、「株式上場」については、全く触れられていません。
ですが、こちらは起業→株式上場→創業者の引退まで踏み込んだ内容です
創業者の引退というところが、他の証券アナリスト向けのテキストと違うところ)。



営利法人を立ち上げて上場するかしないかは、
創業者(や出資者)の自由ですが、「上場」がひとつの手段だと
考えている人のための本でしょう。



ピーター・ドラッカーで出てくる組織の在り方や、
証券アナリストの教科書に出てくる資金調達の説明などが、ひととおり触れられています。



「ベンチャー企業を立ち上げたい!でもどうやって運営するの?」とか
「将来のために大学の経営学部に入学したけど何読んだらいいのか分からん!」という、
素朴な疑問をお持ちの方に、最初の一冊!




【参考文献】


ロバート・キヨサキ 金持ち父さん貧乏父さん 筑摩書房