2013年3月30日土曜日

夜行観覧車

古今東西、人間不変の「ドロドロさ」



夜行観覧車



著者の湊かなえさんの作品を初めて読みました。何かと「手堅い」作家さんだと思います。
聞けばテレビでも、本書を題材としてドラマが放映されているらしい。



「手堅い」というのは、何もTBSで放映されているからだけではありません。
人間がもつ不変的な「ドロドロさ」を現在の日本の風景に落とし込んでいるからです。
昔からあるようなテーマを使って、読者の期待に答えるように感じます。



つまり、本にするにしても、ドラマにするにしても、
商業的に「ハズレなし」というふうにしていることが、「手堅い」と感じるゆえんです。
古典文学の現代訳を出すようなもので、一定の需要があることが予想できます。





Nakayan's tilt-shift residential street in Yokohama 箱庭住宅街 / pinboke_planet





『戦争と平和』と『夜と霧』





ドロドロさ」というだけでは、あいまいではっきりしません。
本書で登場する人物の「ドロドロな性格」を、古典に置き換えてみましょう。



「周りの目を気にしすぎ・自意識過剰」



戦争と平和(1865~1869・ロシア) byレフ・トルストイ(ロシア)

ナポレオン戦争で出征している、あるロシア軍士官は、
フランス軍との交戦中に目の前で砲弾が飛び交っているにも関わらず、
敵兵よりもなぜか上司からの評価が気になって仕方がない。



「自分より弱い立場の者を追い込む・蔑む」



夜と霧(1946) byヴィクトール・フランクル(オーストリア)

第2次世界大戦期における強制収容所経験にもとづいた作品。
強制収容所の所員による直接的な虐待よりも、
追い詰められた収容者同士の足の引っ張り合いの方がエグイ。




『夜行観覧車』は救われるのか?





一応、「感想文」の体裁を取っておりますが、実は全文を読んでません。まだ途中です。
ドロドロしすぎ」でこの先、読もうかどうか迷っています。



確かに戦争と平和夜と霧も読んでいて、苦しい部分はあります。
しかし、あるところで登場人物が、人生を達観したような感じになり、
読んでいて「救われた」感じになるからです。



果たして、本書は読んでて「救われる」のでしょうか?(ドラマも見る気がせんな~~~)




【関連エントリ】


世界100物語〈4〉ロシアの光と影(イワン・イリイチの死)



【参考文献】


レフ・トルストイ 戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)






ヴィクトール・フランクル 夜と霧 新版 みすず書房






2013年3月29日金曜日

隷属への道 ハイエク全集 I-別巻 【新装版】

「社畜への道」参考ガイド本







最近マイブームとして、「池上本」が来ています。
先日も世界を変えた10冊の本という本を読んで、感想を書きました。



読み返すと池上彰先生は、その「10冊」のうちの1冊として、
ミルトン・フリードマンが書いた資本主義と自由 (日経BPクラシックス)を挙げられています。




東京都庁

Tokyo Metropolitan Goverment Offices / Sjors Provoost





「こんなものいらない14項目」





資本主義と自由 (日経BPクラシックス)の要約として、池上先生は、
「こんなものいらない14項目」と見出しを打って、
「政府がやらなくてもいい仕事」という、フリードマンの主張を紹介されています(P248)。


  1. 農産物の買い取り保証価格制度
  2. 輸入関税または輸出制限
  3. 農作物の作付制限
  4. 家賃統制。物価・賃金統制
  5. 銀行に対する詳細な規制
  6. ラジオとテレビに対する規制
  7. 現行の社会保険制度
  8. 事業や職業に対する免許制度

etc…etc…


14個全部は書きませんが、つまりは「政府の仕事は最小限に」ということでしょう。
これらは比較的具体的な政策ですが、この考え方を
一つ上の上位概念で抽象的に表したのが、今回紹介する隷属への道 です。




「自由を破壊する保障」とは





隷属への道 は第2次世界大戦期の1944年に書かれた本ですが、
とても70年も前に書かれた本だとは思えません。今そこに起こっている事実が
述べられている感じがします。



特に現在の状況とダブる(と個人的に思う)のが、経済的保障に関する
「自由の下での保障」「自由を破壊する保障」についてです(P154)。


  • 「自由の下での保障」

限定的保障。社会の成員がいかなる場合でも、ある最低限度の生計を行える保障。


(イメージ)→日本国憲法25条・生活保護法



  • 「自由を破壊する保障」

特定所得の保障。ある特定の生活水準の保障。自分やその属している地位が、
他の個人や集団と比べて、相対的に変化しないという保障。


(イメージ)→「就活狂想曲」社畜




隷属への道と「就活狂想曲」





ハイエクに言わせると後者の「保障」は、ごく一部の例外(裁判官とか)を除いて、
社会の成員全員に与えられないし、また与えてはいけないという「特権」になるそうです。
「特権」を与えることは、「自由」に対する脅威となるからです。



なるほど、そうしてみれば、今の世相を皮肉ったような
この動画↓が、より興味深く視聴することができますね。
実際、自分も同じことをしていたので、とても考えさせられます(苦笑)。



アニメーション「就活狂想曲」







【関連エントリ】


戦前昭和の国家構想
1940年体制 さらば戦時経済増補版
世界を変えた10冊の本
フリードリヒ・ハイエク




【参考文献】


ミルトン・フリードマン 資本主義と自由 (日経BPクラシックス)







2013年3月28日木曜日

弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー

『ガンガンいこうぜ』で都大会5回戦進出!








RPGの定番、「ドラゴンクエスト」シリーズではⅣから、AI戦闘モードというシステムがあります。
モンスターと遭遇したとき、主人公以外のキャラについて、
6種類のモードから選んで、自動戦闘をさせる機能です。


  1. 「みんながんばれ」→バランスの取れた平均的な戦闘
  2. 「ガンガンいこうぜ」→最大威力の攻撃手段で総攻撃をかける
  3. 「いのちをだいじに」→仲間が倒れないことを最優先
  4. 「じゅもんをせつやく」→呪文の使用を控えめに戦う
  5. 「じゅもんをつかうな」→呪文を一切使わずに戦う
  6. 「いろいろやろうぜ」→無意味な道具や呪文を使ったりする


本書でサブタイトルにも使われているとおり、
開成高校のセオリーとは、2番目の「ガンガンいこうぜ」です。
相手に10点取られることを前提に15点取って勝ち抜くという発想。
詳しい戦績はコチラまで(高校野球ドットコム)






DSC_0833 / alexxis





「弱くても勝てる」チームの例(フィクション)





個人的に「弱くても勝つ野球」と聞くと、投手をはじめとした、
守備力を鍛え上げる野球をイメージします。業界用語でいうところの「スミ1の野球」です。
具体例は、次のとおり(すべてフィクションの高校ですが)。





学校が、四国一の超進学校で、投手がスーパークレバーな投球術の持ち主。
予選の高知県大会では失点0。甲子園1回戦では、ドカベンこと山田太郎の明訓高校を、
あと一歩で完封勝利というところまで追い詰める。





遊撃手以外はコレといった選手がいないにもかかわらず、
投手がプロ野球のスカウトにひそかに指導を受け、夏の神奈川県大会で7試合に出場し、
防御率は0.60。県大会では、決勝戦まで進出する。






新設野球部のため、部員は1年生のみ。全体的に体も小さく、長打は期待できないが、
「投球バカ」ともいえるほどのコントロールの利いた投手を要としたチーム。
初の埼玉県大会では、5回戦進出を果たす。




セオリーは自ら考えよ!





このように「弱い」チームは、投手中心の守備力重視という定説(?)がある中、
なぜ開成は、超攻撃的な野球をするのか?それを読み取るのが、本書の面白さです。



普段は、当たり前すぎて見逃してしまうようなことについて、
あえて考え抜いて実践することが、「開成野球」の極意なのでしょう。



下の引用は、格上の相手と練習試合で10-5で勝った時にも関わらず、
試合内容に満足しない監督が、選手たちに対して激昂して出た言葉です。


"俺たちは小賢しい野球は、ちょっと上手いとかそんな野球はしない。自分たちのやりたいことを仕掛けて、そのやり方に相手を引っ張り込んでやっつける。俺達は失敗するかもしれない。勝つこともあれば負けることもあるが、勝つ可能性を高めるんだ!これなら国士舘や帝京にも通用するんだよ!"


(P52 2回理屈で守る)





【参考文献】


水島新司 大甲子園 文庫全17巻 完結セット (秋田文庫)






三田紀房 甲子園へ行こう! (1) (ヤンマガKC (884))







ひぐちアサ おおきく振りかぶって コミック 1-20巻 セット (アフタヌーンKC)









2013年3月27日水曜日

今週の週刊ダイヤモンド 2013年3月30日号

統計学が最強の学問である



今週の週刊ダイヤモンド 2013年3月30日号




近頃、経済誌界隈では、統計学が最強の学問である統計学が最強の学問である という本が何かと賑わせているようです。
Googleトレンドで過去12か月間の、「統計学」という単語のトレンドを調べてみると、
なかなか手堅い数字であることが分かります。



そういや週刊 ダイヤモンド 2013年 3/23号 [雑誌]週刊 ダイヤモンド 2013年 3/23号 [雑誌] の書評コーナーでも、
統計学が最強の学問であるの書評が出ていました




こどもの数及び総人口に占める割合の推移

こどもの数及び総人口に占める割合の推移 / yto




これから食える仕事→「データサイエンティスト」





経済誌を読んでいると、流行ものについてメシが食えるか(雇用があるか)?
ということが、セットで語られますが、やはりあるみたいです。






これらは、データサイエンティストという職業のことを表した見出しです。
大量のデータを分析し、そこから有益な結果を導き出しことで、ビジネス上の
価値創出のシナリオまで描けるような、データ活用専門家のことです。



マネーボール・貧乏球団が金持ち球団に勝つ方法




なーんか分かったような、分からんような説明が並べました。
具体的にはデータサイエンティストの例は、「マネーボール」に出てくる、
ブラピが演ずるオークランド・アスレッチクスのGMビリー・ビーンです
(正確には統計実務家であるビーンの部下がデータを扱っていたが)。






統計データにもとづいてそれまでの野球観を変え、メジャーリーグ屈指の貧乏球団が、
160試合中101勝もするお話は、とても痛快ですよ!




【参考文献】



西内 啓 統計学が最強の学問である 






マイケル・ルイス マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男 ランダムハウス講談社








2013年3月22日金曜日

孤独であるためのレッスン

「孤独学」が分かる~自分との本当の出会いについて



孤独であるためのレッスン



以前、働くことがイヤな人のための本という本の感想文を書きました。
確か、中島義道さんは、37~38歳ぐらいまで、引きこもり同然の暮らしをしていたそうです。



本書の著者である諸富祥彦さんに言わせると、
文科系の大学院に行く人は、そんなもんだということです。
ちなみに諸富さんは、大学の学部に4年、院に7年間も在籍していたそう。



うち、2年間は、最低限の生理的欲求(食事、トイレ、週に一回の入浴など)
を満たす以外は、思考と論文執筆のみに没頭していたそうです。





Lonely Monkey

Lonely Monkey Ape at Zoo / epSos.de



「ひとり」と「深い孤独」の違い





さて、この本では、「孤独」という言葉について、きっちりと定義がなされています。
実存心理学者・ムスターカスの『愛と孤独』からの引用を引いて、説明をされています。
まず、「孤独」について「ひとり」「深い孤独」に分けています。


1.「ひとり」


毎日の忙しさから自分を取り戻し、自分を表現するために必要な一時の休息
または、過去と未来に連続性があり、社会に戻っていくための準備期間。


2.「深い孤独」


自分がギリギリにまで追い詰められたあとに訪れる極限的な体験
また、過去と未来の間に断絶した体験をもたらす。



「深い孤独」の詳しい分類




ちなみに、2.「深い孤独」については、さらに説明がなされています。
詳しくは述べませんが、ざっと次のように分類できるそうです。
図にすると、何かと分かりやすいと思い、まとめてみました。



「深い孤独」の詳しい分類



「深い孤独」の詳しい分類



  • 孤独になる勇気を持ちたい人
  • 孤独を楽しむ能力を持ちたい人



ぜひ、どうぞ。




【関連エントリ】



働くことがイヤな人のための本
ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法