2012年12月31日月曜日

神を哲学した中世~ヨーロッパ精神の源流


現代の問題を考える際には中世ヨーロッパへ



神を哲学した中世~ヨーロッパ精神の源流



経済学の始まりは、アダム・スミスを始祖として、
18世紀ごろに遡るということを聞いたことがあります。


そのせいか、経済学の勉強をしていると、18世紀以降のヨーロッパ人が、
何を考えていたか(考えているのか)ということには、ちょくちょく出くわします。
アダム・スミスの他にも、


  • ロバート・マルサス
  • カール・マルクス
  • ジョン・M・ケインズ
  • フリードリヒ・ハイエク
  • ヨーゼフ・シュンペーター

かなり大ざっぱな区切りですが、経済学では、「大家」の方がたです。
もっとも、やはり18世紀から20世紀にかけて活躍された方々なので、
それ以前のヨーロッパ人は、何を考えていたかということについては、つい疎くなってしまいます。




管理人が、中世ヨーロッパと聞いても、いまいちピンときません。
ですが先日、当ブログでも書いた評価経済社会によると、
中世ヨーロッパにおけるキリスト教や教会は、現代で言うところの、
マスメディア・義務教育の役割を担っていたそうです。



カトリック弘前教会教会堂

カトリック弘前教会教会堂 天地創造からキリストが生まれ、岩木山の地に殿堂されるまでの物語 / monoprixgourmet_bis



それほどのものならば、中世のキリスト教神学は、
近代のヨーロッパ人にも精神的な影響を与え、現代の科学技術に対する考え方にも
やはり影響を与えているのではないか、と考え本書を読みました。

"ところで、原子物理学とは、原子がもつ科学ではなく、原子についての科学である。現代科学は原子の構造や宇宙の始まりを探っている。同じように神学は神の学問と言っても、神がもっている学問ではなく、神を原理(始め)とする世界についての学問であり、神について人間が近づくことができる範囲の学問である。けして神秘の学問ではない。神が創った世界を、そしてその原理である神を、どこまで学問的に語れるか、論理的に考えれるかぎりを尽くした人間の営みであった。"

(P4「はじめに」より)



【関連エントリ】


神学部とは何か 非キリスト教徒にとっての神学入門
評価経済社会~ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている














"












2012年12月30日日曜日

年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その4

「積立金不足」をうめるのは「未来への期待感」







鈴木亘先生の、「年金問題は解決できる!」の感想文も、今回が最終回です。
前回のブログでは、公的年金制度において、すでに生じている、
「750兆円の積立金不足」の補填方法について、述べました。

 

鈴木先生は、まず「相続税の徴収強化」をあげられています。
次に、2番目の方法として、「積立方式年金事業団債」を発行する方法も、紹介されています。




赤ちゃん

おはようとらちゃん / yto




事業の黒字を担保に資金調達




前回のブログで紹介した「積立方式年金事業団」は、
将来に向かって新しく年金の積立を行う組織です。



当然、最初のうちは収入大で、支出ゼロの事業なので、事業は黒字になります。
その黒字と、将来の所得税を担保にして、債券市場から資金調達をします。



そして、そこで調達された資金をもって積立金の補填を行い、
現在、年金を受け取る方にお金を配分します。



ただ、この方法に関する見方は、2つに分かれると個人的に考えています。


  • 肯定的な見方→「世間はオレ達を信じてしてカネを託してくれる!」
  • 否定的な見方→「結局は借金かよ!?」



資産と負債は表裏一体の関係





もっとも、現行の公的年金制度をそのまま続けるにせよ、
鈴木先生が提案される、「積立方式年金事業団」「年金清算事業団」を導入するにせよ、
「750兆円の積立金不足」という、負債の手当てという問題は、常について回ります。
(つまり、日本に住んでいる限り借金からは、誰も逃げられないということ)



このように「負債」、「負債」と書くと、まるで負債が疫病神のように見えますが、
個人的には、そういう風には考えていません。
社会全体で考えると、「誰かの資産は、誰かの負債」で、両者はワンセットの関係だからです。
(会計の世界で使われている貸借対照表のイメージ)



問題は、「片割れの資産」を持っている人が、「片割れの負債」を持っている人に対して、
「コイツは、負債が返せなくなるじゃないか?」ということを「思い込んでしまう」
ということでしょう。



「負債が返せなくなった」という確定した事実も、もちろん重要ですが、
ここでは、その事実よりも先に、「思い込んでしまう」ということがポイントです。



人はそういう心理状態に陥ると、他人に対して、お金を貸そうとは思わないでしょう。
また社会全体がそう思えば、「積立方式年金事業団債」を、誰も買わないでしょう。
(この心理状態の、逆バージョンがいわゆる「バブル経済」




解決方法は未来への「期待」





逆に、資産側が、負債側に対して、
「コイツにカネを貸しても(出資しても)大丈夫。必ず利子(配当)をつけて返すはずだ!」
と思ってしまえば、人は、他人にお金を貸します。



債券市場や資本市場で、それなりのお金を、それなりの条件で
調達することが、できるでしょう。



今回は、4回シリーズのブログで、公的年金問題について書いてきました。
管理人は、この問題を解決するためには、


  • 『「お金を持っている側」が「お金を持っていない側」に対して、見返りの「期待」を込めて、お金を貸す(出資する)ことができるか?』


つまり、「未来への期待感」をいかに社会全体で醸成するか?ということに尽きる、と考えます。




「ほどほどの期待感」が必要





今回は、たまたまテーマが、「公的年金問題」でしたが、
テーマを「企業」に置き換えても、同じことが言えると思います。



以前、戦後から高度経済成長期において、
「日本のどの部門がおカネを持っていたか?」という指標を見たことがあります。
その指標で、「企業部門」を見ると「資金不足」の状態であったことが分かりました。



それに対して、「家計部門」・「金融部門」などは、「資金超過」の状態にあり、
「企業部門」に対して資金を供給し、「日本全体でほぼチャラ」という印象を受けました。
(あと、「外国部門」とかもあったと思いますが、浅学にして国内部門しか見ていません)。



70年代半ばに生まれた管理人は、「高度経済成長期の日本」と聞くと、
「金持ちの国」というイメージを抱いていましたが、
決してそうではなかったことが、最近ようやく分かってきました。



実は、「企業部門」は成長を担保として、負債(や出資)などで
他部門からカネを回してもらっていたことが、この指標を見て、理解できるようになりました。
(ちなみに、ここ最近の「企業部門」は「資金超過」の状態にあることもついでに分かった)。



もちろん管理人は、「期待」の効用だけを考えるもではありません。
「期待」の先にある、「見返り」「リスク」をどのように測るか?ということも、
同じくらい大切だと考えています(そうでないと「バブル経済」になってしまいますから)。



そのためには、鈴木先生が、本書で述べられたように、
日本全体で「750兆円の積立金不足」という、基本的な事実を明確にされたことは、
大変意義のあることだと考えています。




【関連エントリ】



年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その1
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その2
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その3
15歳からのファイナンス理論入門-桃太郎は、なぜ、犬、猿、キジを仲間にしたのか?
2050年の世界 英『エコノミスト』は予測する
今週の週刊ダイヤモンド2012年12月8日号


【参考文献】


ジェームズ・スロウィッキー 「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)





2012年12月29日土曜日

年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その3

積立方式による年金制度の提案



年金問題は解決できる! 積立方式に以降による抜本改革


前々回前回と「公的年金の現状」と「公的年金の将来」について、書いてみました。
特に前回のブログ「公的年金の将来」では、


  • 将来の年金(給付)= (賃金 ×上昇率2.0% × 年数) + 保険料率(同じ) + (積立金 × 利回り2.5% ^ 年数)+ 税金


という計算式をあげ、年金給付の原資である、公的年金の積立金が急速に減少している
現状について、本書の内容と合わせて紹介しました。




赤ちゃん

床で遊ぶとらちゃん / yto





それで将来の年金給付はどうなるのか?






ここまで書くと、「じゃあ年金制度はどうなるの?」ということになります。
著者の鈴木先生は、現行の年金(給付)の水準と法制度が続くと仮定して、
以下のようになることを示されています(P38)。


  1. (厚生年金)積立金が2031年度に枯渇
  2. 「2017年に18.3%で固定」とした厚生年金の保険料率を「2035年に24.8%で固定」に修正


ちなみに2については、鈴木先生の見解ですが、
1については、厚生労働省の見解に基づいています。
厚生労働省 第15回社会保障審議会 年金部会(6ページの注2)





「年金清算事業団」の発足






一見、複雑そうに見える公的年金の問題ですが、
本質的な問題は、「750兆円の積立金不足」というところに行きつきます。



  • 労働者予備軍(子ども)を増やして、保険料徴収の対象者を増やす
  • 保険料率をあげて保険料収入を増やす
  • 積立金残額分の運用成果を利回りをあげる



これらは、「積立金の不足」を補うための、一つの手段となります。
ですが、そもそも、これらの手段を講じるためには、不足している積立金について、
まず最初に、「どのように」補填していくのか、という視点が必要になります。



その視点を確保するために、鈴木先生は、
「積立方式年金事業団」「年金清算事業団」の方式を提案されています。
特に後者については、過去にJR(旧・国鉄)で行った実績がある方式です。


  • 「積立方式年金事業団」

将来、年金を受け取る人たちのために、個人別の積立口座を開設し、
それぞれが、将来に所得補償の必要が生じたときに、「個別」に取り崩す。


  • 「年金清算事業団」

すでに年金を受給している人たちや、過去に年金支給の対象となった、
保険料を支払った実績のある人たちに、確定済みの年金(給付)を支払う。



大ざっぱな感じですが、世代別にカテゴライズすると、次のようなイメージになると思います。


  • 子ども→「積立方式年金事業団」のみ加入
  • 若年・中年齢層→「積立方式年金事業団」と「年金清算事業団」の2つに加入
  • 高年齢層→「年金清算事業団」のみ加入


積立金不足はどうやって埋めるの?




ただし、この方式でも、なお問題が残ります。
過去から現在にかけて築き上げた、「750兆円分の積立金不足」について
「誰が」、「どのように」、負担するのかという問題です。



そこで鈴木先生は、負担の原資の一つとして、「相続税の徴収強化」をあげられています。
「生きている人」には課税をしないが、「死んだ人」には課税するという考え方です。


"現在、我が国では、毎年約40兆~97兆円もの相続資産(不動産を含む)が発生していると推計されています。そのうち、相続税(贈与税を含む)として徴収できているのは、わずか1.4兆円程度にしか過ぎません。"

(P145 第5章「「積立方式移行」で年金問題は解決できる」)


ちなみに、「相続税の徴収強化」というのは、社会保障制度改革の一つとして、
取り上げられることもある、「ベーシック・インカム」においても、その財源として、注目されています。



前回のブログでは、「750兆円」の部分を「800兆円」と書き換えています。
750兆円は、厚生労働省が、2009年の公的年金の財政検証に用いた値です。
800兆円は、著者が本書の出版に合わせ、最新のデータで計算した値です(P129)。

(つづく)



【関連エントリ】


年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その1
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その3
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その4
2050年の世界 英『エコノミスト』は予測する
今週の週刊ダイヤモンド2012年12月8日号
やさしい「ベーシック・インカム」
おちゃらけミクロ経済学 ベーシックインカムと「もしもボックス」



【参考文献】


新田ヒカル・星飛雄馬 やさしいベーシック・インカムやさしいベーシック・インカム サンガ


やさしいベーシック・インカム


2012年12月28日金曜日

年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その2

将来問題を考えるときのツールは「複利計算」






前回からの続きです。
前回では、「公的年金の現状」について、簡単な計算式で表しました。
今回のブログでは、「公的年金の将来」についてカンタンな計算式で表しましょう。



現在の公的年金制度は、「世代間の仕送り方式」とも呼ばれ、
その時々の、働ける世代が保険料を支払い、働けない世代がその保険料を
年金として受け取るシステムになっています。



現在働けいて収入を得ている世代も、将来的には、「老齢」や「障害」などを理由として
働けずに収入が途絶えるということが、一定の確率で発生します。



こういった長期的なシステムのため、公的年金制度を考える上では、
「現在」だけでなく「将来」の視点でも、考える必要があります。




赤ちゃん

ご機嫌とらちゃん / yto




公的年金を理解したい人のためのやさしい計算式 その3



  • 現在の年金(給付)(A)= 賃金(B) × 保険料率(C) + 積立金(の取崩し)(D) + 税金(E) ―(2)


前回のブログで登場した計算式です。
「公的年金の将来」について、厚生労働省が(分かりにくく)発表し、
著者がまとめた数値を使うと、以下のような計算式になります。



  • 将来の年金(給付)(A)'= (賃金 ×上昇率2.0% × 年数)(B)' × 保険料率(C) + (積立金 × 利回り2.5% ^ 年数)(D)'+ 税金(E)―(3)


  • 将来の年金(給付)(A)'

65歳以降世代の増加による給付増


  • (賃金 ×上昇率2.0% × 年数)(B)'

2009年の財政検証で厚生労働省が発表した名目金利の長期運用利回りは4.1%(P41)
(運用利回りと賃金の上昇率は一概に比較できないが、複利計算をする上で、乖離が生じる)

  • 保険料率(C)

据え置き。同じ。


  • 積立金(D)'

2009年の財政検証で厚生労働省が発表した名目金利の長期運用利回りは4.1%(P41)

  • 税金(E)

2004年の年金改革で消費税のUPはすでに織り込み済み(P57)



要するに、左辺の年金(給付)は「確実に増加」していくのに対し、
右辺の賃金と積立金の部分は、「加速度的に減少」していく
ことになります。



特に右辺は、第1項と第2項に、大変な問題を抱えています。
なぜなら、賃金上昇率と積立金の運用利回りが、過去に政府が年金制度を運営するために、
想定している利回りの数値と乖離があるからです。




おそるべき複利効果のパワー




賃金上昇率が政府の想定していた数値と乖離していていることも、十分問題ですが、
積立金の部分が、「加速度的に減少」していくことも、同じくらい重要です。



乖離幅に基づいてを複利計算すると、元利合計が年数分だけ
累乗的に乖離することになるからです。



例えば、管理人が、現在20万円の積立金を持っているとしましょう。
これらを2つの銀行に50年間10万円ずつ、それぞれの利息で預けると、
元利合計は、以下のようになります。


  • A銀行→4.1%→745,652円
  • B銀行→2.5%→343,711円


わずか1.6%の違いですが、結果として両者は倍以上の差が返されます。
いろいろ複利計算シート



公的年金は100年間にわたって制度設計がなされます。
例で上げた、50年の連続複利計算は、決して大げさなものではありません。
年金給付の引当てとされるている、「原資」は急速に縮小しているのです。
(つづく)



【関連エントリ】


年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その1
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その3
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その4
2050年の世界 英『エコノミスト』は予測する
今週の週刊ダイヤモンド2012年12月8日号










2012年12月27日木曜日

年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その1

計算式でわかるカンタン年金問題



年金問題は解決できる! 積立方式に以降による抜本改革




日頃、公的年金関連のニュースを見ていると、
「そもそも年金(給付)はどのようなシステムで支払われているか」
という視点が少ないように感じます。
まず、最初にカンタンな計算式を使って、公的年金について解説していきしょう。



ポイントは、「誰かの収入は、誰かの支出である」ということです。
この単純な事実をおさえておけば、非常に分かりやすいものです。

"我が国の年金制度では、若いころ支払った保険料は、自分の口座に蓄えられることなく、支払った瞬間にパッと煙のごとく消えてしまっています。どこに消えたかといえば、政治家や官僚たちがムダ遣いをして消えた分もありますが、大半は、その時の老人に年金を支払うために使われてしまったのです。認めがたいことかもしれませんが、これが現実です"

(P92 「第4章諸悪の根源はどこにあるか?」)






赤ちゃん

両手におもちゃを持って遊ぶとらちゃん / yto





公的年金を理解したい人のためのやさしい計算式 その1





上の引用のように現在の公的年金制度は、働いた人が納めた保険料をそのまま
年金の受給者に渡す制度なので、現在の年金(給付)は以下の(1)式によって成立します。
(いわゆる「賦課方式」の年金制度)


  • 現在の年金(給付)(A)= 賃金(B) × 保険料率(C) -(1)

本書で述べられている内容にもとづいて、(1)式の現状を左辺から解説していきましょう。


  • 現在の年金(給付)(A)

物価が下落していても年金(給付)の名目金額は据え置き(P51)


  • 賃金(B)

上昇率はマイナス(過去10年間の名目賃金上昇率は‐0.7%)(P38)

  • 保険料率(C) 

一定水準まで段階的な引き上げを行ったあと固定
(毎年0.354%ずつ引き上げて2017年に18.3%で固定)(P54)



つまり(1)式は、左辺の価値が大きい状態が続いているにも関わらず、
右辺の価値は、どんどん下がっているということを表しています。
実は、左右でイコールにはなっていないところがミソです。




公的年金を理解したい人のためのやさしい計算式 その2





しかし、左右でイコールにならないと、現行の公的年金制度が、成立しませんので、
現実的には(1)式は、次の(2)式のように修正されます。



右辺に、積立金(の取崩し)と税金が投入されます。
(いわゆる「修正賦課方式」「修正積立方式」の年金制度)


  • (修正版)現在の年金(給付)(A)'= 賃金(B) × 保険料率(C) + 積立金(の取崩し) (D)+ 税金(E)

  • 積立金(D)

800兆円の積立金(引当)不足
(すでに支払うと約束した年金債務950兆円と積立金残額150兆円の差額)(P123)


  • 税金(主に消費税)(E)

国民年金給付の、おおむね半額に相当する額を、すでに織り込み済み



現行の公的年金制度では、右辺の第1項のみでは、
左辺とのつり合いが取れないため、政府は、第2項と第3項を用意しています。



しかし積立金は、「過去のダメージ」を引きずって傷ついています。
今回のブログは、現在の状況についてのみ言及しましたが、
さらに大きな問題が、将来にわたって続くというところです。
(つづく)




【関連エントリ】


日本成長戦略40歳定年制 経済と雇用の心配がなくなる日
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その2
年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革その3
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2050年の世界 英『エコノミスト』は予測する
今週の週刊ダイヤモンド2012年12月8日号







2012年12月26日水曜日

TPPで日本は世界一の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代

TPPをビジネス思考で考えてみよう


TPPで日本は世界一の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代



おちゃらけミクロ経済学で、比較優位や割当に関する記事を書いて以降、
国際貿易の問題を考える際に、ミクロ経済学の視点が使えると、感じるようになり、
本書を手に取りました。



本書を読んで、最も印象に残った点は、TPP(環太平洋経済連携協定)の考え方が、
品目別に異なるというところです。



農業品目をカロリーベースで「まとめ」




少し大ざっぱにいうと、農業品目をカロリーベースで見ると
高い品目ほど「TPP参加反対」に近い立場が取られており、
低い品目ほど、「TPP参加賛成」に近い立場が、取られているような気がします。
(より正確に言うと「参加・反対どちらでも良い」という感じ)。


  • 米・小麦・大豆・飼料など→カロリーベースの高い品目
  • 野菜・果物・花卉など→カロリーベースが低い品目


※飼料とは家畜用を指しますが、その家畜は人間が食べるので、
カロリーベースが「高い」としました。花卉は食べられませんので、
カロリーベースが「低い」にしておきました。



農業品目をビジネスベースで「まとめ」




次にこれらの品目を、ビジネス単位でザクッとまとめなおすと、
次のような印象を受けます。


  • 米・小麦・大豆・飼料など→国内向けビジネス
  • 野菜・果物・花卉など→海外向けビジネス


例えば、小麦であれば、なぜか農水省が「輸入商社」(P119)をやって入る一方で、
リンゴについては、日本産のリンゴが「アメリカで大ヒット」(P47)しているのが、
非常に対照的です。



リンゴ

Fruits / mrhayata



知財分野と農業分野のTPPを比較



次に、少し大きな視点から知的財産権分野のTPP問題と、
農業分野のTPP問題を比較してみましょう。



先日のブログでは、知的財産分野のTPP問題のネックとなっているのは、
既存のメディア産業がデジタル・フリーのビジネスモデルについていけるか
どうかにかかっていることを述べました。具体的には次のような構造になります。


  • 新聞・TV・音楽CD→デジタル・フリーは容認不可(紙・DVD・CDはコピーが簡単)
  • イベント・ライブ→デジタル・フリーは容認可(生体験するものはコピーできない)


そしてここからが、管理人の個人的な予想です。
とっちらかった結論かもしれませんが、農業分野のTPPと合わせて、
ビジネス・ベースで次のように推測します。


  • 米・小麦・大豆・飼料→新聞・TV・音楽CD→国内向け産業
  • 野菜・果物・花卉→イベント・ライブ→海外向け産業


つまり、後者の組み合わせは、「海外に輸出できる産業」ということで
「まとめ」られるのではないでしょうか?



【関連エントリ】


限界集落株式会社
今週の週刊ダイヤモンド2013年2月9日号
おちゃらけミクロ経済学 自由貿易の条件
「ネットの自由」VS著作権 TPPは終わりの始まりなのか



【参考文献】


グレゴリー・N・マンキュー マンキュー経済学〈1〉ミクロ編マンキュー経済学〈1〉ミクロ編 東洋経済新報社


マンキュー経済学〈1〉ミクロ編



2012年12月25日火曜日

「ネットの自由」VS著作権 TPPは終わりの始まりなのか

TPPや著作権についてビジネスよりで分かりやすい解説


「ネットの自由」VS著作権 TPPは終わりの始まりなのか



本書は、福井健策先生(弁護士・ニューヨーク州弁護士)が、
今話題の、知的財産分野のTPP(環太平洋経済連携協定)問題と、
各国の著作権法問題について、言及された本です。



TPPや日米欧の著作権法の比較に関して、管理人のうすっぺらい知識を
披露しても仕方がないので、まずは、福井先生の文章について述べてみたい思います。



実は、管理人は、福井先生の著作を読むのは2回目です。
まだ当ブログには、感想文を載せていませんが、
先に著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)
という著作を読んだことがあります。



その本を読んだ時も、同じようなことを感じましたが、
福井先生は、著作権法について、非常にビジネスよりに説明されていますので、

  • 「知的財産権分野のTPPに参加すると日本のコンテンツ産業はどうなるのか?」

という問題が、法律のシロウトにでも分かるように、綴られています。
もちろん、法律そのものについて、一般人の生活にどのような影響を及ぼすかという
NHKの「生活笑百科」的な視点も、フォローされています。



ビジネス・ネゴシエーション

2010 Taco Time-RonSombilonGallery (91) / RON SOMBILON MEDIA, ART and PHOTOGRAPHY


要はビジネスモデルを変えられるかどうか


  • SOPA(オンライン海賊行為防止法)
  • ACTA(模倣品海賊版拡散防止条約)
  • ミッキーマウス保護法


これらは、知財分野におけるTPP参加において、
キーとなる米国の法律名や、国際的な条約です。


こういった法律や条約そのものに関する説明と、その感想を述べていくだけでも、
ブログ的にはおいしいです(なぜなら、検索ロボットがこれらのキーワードに反応しそうだから)。



ですが読んでいる途中で、福井先生が本文中で
最も主張したいことが、管理人が感じていることと、リンクしているところがあったので、
そこについて、特に述べましょう。


"つまり、コンテンツ産業は典型的な海賊版に加えて、ネット上の膨大「フリー」なコンテンツとの競争を余儀なくされ、それが(新聞・TV・音楽CDなどの既存メディアの)売上の長期縮小傾向につながっているということです"

(P113 第3章「最適の知財バランスを求めて」)


知的財産分野におけるビジネスモデルの比較



この第3章では、主たるコンテンツ産業の売上が、21世紀に入ってから長期低落傾向にある中で、
「ライブイベント・ビジネス」だけが、わずかながら、売上増加傾向にあることが、
紹介されています(P110)



当然、「ライブイベント・ビジネス」は、直接現場に行って楽しむものであり、
文字、画像、音のように、デジタル・コピーの影響を被ることは、あまり考えられません。
むしろ、コピーコストが、ほぼゼロという恩恵を受け、宣伝や広告効果を発揮しています。



一方、新聞・TV・音楽CDなどの既存メディアは、
最初に膨大な固定費用(印刷工場、放送局、アーティストの育成、
著作権による障壁など)をかけて、低い可変費用(紙、DVD、CDなど)
回収するという、ビジネスモデルです。
(固定費用や可変費用について詳しい説明はこちらまで!)



つまり、既存のメディア産業(とその参加企業で構成される業界団体)にとって、
TPPに参加するかどうかは、そのビジネスモデルによって賛否の立場が変わる
ということです。

"何が言いたいかといえば、著作権などの知的財産権などに対する態度や正解は、その個人や産業の置かれているビジネス構造、いわば収益モデルに依存するということです"
                               (P113 第3章「最適の知財バランスを求めて」)


ちなみに、農業分野のTPPと知財分野のTPPをと対比すると、
非常に興味深い構図が見えてきそうなので、次回に引き続き、TPP関連の本を取り上げてみます。
(つづく)




【関連エントリ】


コモンズ ネット上の所有権強化は技術革新を殺す
ネット帝国主義と日本の敗北 搾取されるカネと文化
TPPで日本は世界一の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代
おちゃらけミクロ経済学 利潤最大化と費用その3



【参考文献】


福井健策 著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)


著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)



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2012年12月24日月曜日

世界中を虜にする企業 ZARAのマーケティング&ブランド戦略

「独占的競争」で優位性を発揮するZARA



世界中を虜にする企業 ZARAのマーケティング&ブランド戦略



本書の感想文を書く前に、「おちゃらけミクロ経済学」の標準テキストにしている、
クルーグマン ミクロ経済学クルーグマン ミクロ経済学 を読みました。


"長距離電話会社のAT&TとMCIのサービスは何が違うのだろう?エナージャイザーとデュラセルの電池、それにホテルマリオットとラマダの部屋にどんな違いがあるのか(中略)これらの財を生産する企業は、自社製品は他社製品とは異なりより優れていると消費者に確信してもらうため、多大な努力を費やしているのだ。

(P483「第16章 独占的競争と製品差別化」)


独占的競争とは、多数の生産者が競争していて、各生産者は差別化された製品を生産し、
長期的には、自由な参入と退出が生じる市場構造のことを指します。
そこで差別化された製品は、主に3つのタイプに分かれます。

  1. スタイルやタイプの差別化
  2. 立地の差別化
  3. 質の差別化

ZARAを擁する、インディテックスグループは、
ミクロ経済学の独占的競争において、「スタイルやタイプの差別化」に長けた企業のようです。




ZARA

Zara Tallinn / caninhas

ZARAは「セクシー・カンパニー」をめざす!



本書をめくるといたるところに、次のような「妖しい」言葉が登場します。


  • 「セクシーさ」
  • 「官能」
  • 「誘惑」
  • 「エロス」

正直、はじめは戸惑いましたが、ミクロ経済学の「独占的競争」の概念を用いると、
ZARAのマーケティングやブランド戦略の基本的な考え方は、「教科書的に正しい」と
感じました。



著者は、彼らが顧客や従業員に対して、大切に思っていることを表すためには、
次のような配慮が欠かせないと主張しています。(P99)


  • ディテールへの気配り
  • 美的センス
  • 社員への気配り
  • オープンなコミュニケーション
  • 顧客をどれだけ重要視するか


抽象的に描くと当たり前のようなことかもしれませんが、
具体的な方法については、「セクシー」に語られていますので、
興味のある方は、ぜひご一読ください。




【関連エントリ】

おちゃらけミクロ経済学



【参考文献】

ポール・クルーグマン クルーグマン ミクロ経済学 東洋経済新報社クルーグマン ミクロ経済学


クルーグマン ミクロ経済学







2012年12月23日日曜日

社会人のための勉強法について~我妻榮先生と佐藤優さん

民法案内 1 私法の道しるべ


民法案内 1 私法の道しるべ


"第一 法律を学ぶには、暗記しないで、理解しなければならない"

法律に関わらず、「勉強法」全般を身につけたい人には、うってつけの本です。
上の引用は、しょっぱなの見出しです。



本書は、約1000条からなる民法を初心者にでも分かるように、編まれた本です。
最初は、法律そのものではなく、「効率の良い勉強法」が掲載されています。
そのため、以下の方法について、示されています。


  • 「定義を作ることの効用」
  • 「系統を立てて理解する方法」
  • 「不明なものの性質を判断するための方法」


本書を読んでいると、法律の学び方も経済学の学び方も一緒だなあと感じました。
著者の我妻先生は、昭和初期から30年代に、教鞭をとられていました。
それだけに今も昔も変わらぬ勉強法は、とても参考になります。



読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門


読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門


  1. 高等学校程度の知識を埋める本の案内が秀逸!
  2. 昭和恐慌にいたる説明が簡潔明快!
  3. 必ずしも「本への書き込み」だけを「読書の技法」とはしていない


1では、高校で習得しているはずだった、知識の欠損部分を埋めるのに最適な本です。
佐藤さんは、「文系」の人で数学について、苦手意識の強い方には、
以下の本をすすめれられています。




2では、高校の日本史の教科書を使って、必要最小限の文章で第一次世界大戦から、
昭和恐慌へ至る過程を説明されています。



3では、おすすめ勉強法の一つとして、例にあげたのが、意外にもロシア革命で有名な「レーニン」。
彼はしょっちょう逃げ隠れて生活してたから、蔵書はできなかったので、
図書館に通っては、文章をノートに抜き書きをして、コメントを残していったらしいです。
図書館派の人にとっては、非常に嬉しい記述です!




【関連エントリ】

弁護士だけが知っている 反論する技術
神学部とは何か 非キリスト教徒にとっての神学入門
民法案内 2 民法総則


【参考文献】


田代嘉宏 新編 高専の数学1 第2版・新装版新編 高専の数学1 第2版・新装版 森北出版


新編 高専の数学1 第2版・新装版


高橋 一雄 数IA・IIB・IIICがこの1冊でいっきにわかる もう一度 高校数学数IA・IIB・IIICがこの1冊でいっきにわかる もう一度 高校数学 日本実業出版社


数IA・IIB・IIICがこの1冊でいっきにわかる もう一度 高校数学