「あるべき論」と「自然の流れ」
日本の雇用について、法律と経済学の視点から解説した本です。
2011年現在、日本の労働力人口は、約6,600万人で、そのうち雇用労働者が、
約5,500万人と言われています(残りの1,100万人は、自営業者と家内労働者)。
そういう風に考えれば、日本人の2人に1人は、この本の内容に
関わっていることになりますので、知っておいて損はない内容ばかりです。
パラっと目次をめくるだけで、目を引きそうなトピックスが豊富です。
- 採用内定取り消しと解雇規制
- 最低賃金と貧困対策
- 労働時間
- 労働者性
- 労働組合
- 賃金格差
etc…etc…etc…
ただし、この本は、大学の教科書で有名な(?)有斐閣さんから出版されているせいか、
初心者向きではないように見えます。多分、大学の経済学部で、労働経済学を
専攻している人に向けて書かれているような気がします。
中学生の職場体験です☆ / ict.wa4
「最後の保障」は誰がするの?
「労働経済学を専攻している人向け」とキッパリ言ってしまうと、
読者の方の敷居を上げてしまいそうな感じなので、(一応)通読した管理人から見て、
著者の最も主張したいと思われるところを、引用しておきます。
"市場と政府の役割分担という観点からみたときには、取引(労働契約)自体は当事者の自由にゆだねたうえで、政府による財政の投入による所得保障を図るという政策と、市場の効率性を歪め雇用量の減少をともなうとしても、契約内容の最低基準を強制的に設定するという形で労働者の所得保障を図る政策の、どちらが社会全体にとってよいのかという問題でもある"
(「終章 労働市場、政府の役割、そして、労働の法と経済学」 P308。かっこ内は管理人が追加)
別の言葉に置き換えると、
- 労働契約も一種の市場取引だから当事者間の自由にやってね!
- でも当事者間の自由だけにすると最低限の生活も危なくなる人もいるかも!?
- その最低限の生活保障は、企業がするの?国が負担するの?どっちがいいの?
といったところでしょうか。
シメは宣伝も兼ねて…
各章の各トピックスは、すべて市場(経済)と政府(法)の両面から捉えられ、
それぞれのメリット・デメリットが、主に経済モデルと裁判例に基づいて紹介されています。
- 法律はどちらかというと、「あるべき論」
- 経済はどちらかというと、「自然の流れ」
本書では、経済の「自然の流れ」を前提として、法律の「あるべき論」で、
どのように補完していくか、という考えのもとに話が展開されています。
管理人自身は現在、ミクロ経済学のブログも運営しているせいか、
経済の「自然の流れ」をおすすめしたくなります(そのうち考えが変わるかもしれんが)。
ただし、本書の経済に関する部分は、ある程度、ミクロ経済学の初歩的な知識が、
必要になると思います。本書にご興味のある方は、「おちゃらけミクロ経済学」も、
よろしくお願いします(笑)。法律部分については、【参考文献】の本を読んでおくといいかも。
【参考文献】
向井 蘭 社長は労働法をこう使え! ダイヤモンド社
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