投資家が解説する格言:「売上は七難をかくす」
本書は、外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々 で、
有名な、藤沢数希さんが運営されているブログの「金融日記」で紹介されています。
その中で、「久しぶりに面白い本を読みました」と感想が述べられいていたので、
その言葉に惹かれて、管理人も読んでみました。
著者の主張
国内需要の約75%を占め、就業者の85%がサラリーマンを占める民間企業の
業績回復(景気回復)について、投資家(の代理人)の視点から述べられています。
主張のポイントは、ザクっと次の4つになると思います。
- 金融緩和によって負債の「利子率」を下げるだけでは意味がない。
- 株主資本の「利子率」が高いため、トータルとして資本コスト※が高い
- 資本コストが高いため他のステークホルダー(取引先、従業員など)に「泣いてもらう」
- 資本コストは、世界中で「一物一価」の状態になっている
というわけで、著者は投資家の代理人として、「売上高重視」の企業経営を唱えておられます。
※(資本+負債)で計算される、出資した(貸した)お金に対する一種のレンタル料
ROE・企業経営・デフレ
企業は、生産活動に必要な要素を借りて、売上を上げると、
それぞれの利害関係者に対して、次のような順番でその見返り(リターン)を行います。
- 原材料→取引先 (売上粗利益 = 売上 - 売上原価)
- 人件費→従業員 (営業利益 = 売上粗利益 - 販売管理費)
- 負債利子→銀行(経常利益 = 営業利益 - 支払利息)
- 法人税→政府 (税引後純利益 = 経常利益 - 法人税)
- 配当 →株主(内部留保 = 税引後純利益 - 配当)
※一過性の特別利益は除く
ROEを計算式で表すと、「株主資本利益率 = 税引後純利益 ÷ 株主資本」となります。
例えば、資本金が1億円の会社があるとして、株主からROEとして、1%を要求されるときと、
10%を要求されるときを比較してみましょう。
- 1%のとき→税引後純利益100万円
- 10%のとき→税引後純利益1,000万円
後者では、株主に配当として出さなければならない、税引後純利益は前者の10倍も求められます。
売上高が一定の状態で、資本を貸したコストとして、株主からこのような「大きな見返り」を
求められると、その原資として1~4のうちのどれかを削らざるをえません。
このうち「3.銀行」は、すでにやっている(日銀の金融緩和などで利子を負けてもらっている)ので、
「泣いてもらう」のは、「1.取引先」と「2.従業員」しかありません。
(※「4.政府」については、削られているのか、そうでないのかビミョーな感じがします)
著者は、「失われた20年」と揶揄される長びく不況の原因は、
高すぎるROEと、そのしわ寄せを受けて、投資ができなくなっている状況に求めています。
つまり、高すぎる資本コストによって、株主が期待する利益率に合わない、
日本国内の投資は抑制され、企業・従業員の収入減につながっているとしています。
「目に見えないもの」を見えるようにすることがポイント
高すぎるROEを「低くすればいいじゃないか!」ということになりますが、
資本コストが、世界の金利に引きずられて、「一物一価」の状態に収斂している状況では、
この「パイの切りあい」を変えることは、容易ではありません。
(もちろん、企業は「高すぎる資本コスト」について、「NO!」を突き付けることも、
できないではありませんが、日本の企業経営者にはそれができないらしい。
そのへんの詳しいところは、「第4章 株主とは何者か」をご覧ください)
今日のランチはウインナーピザ。¥990 #lunch / *tomoth
そもそも、利害関係者同士で「パイの切りあい」をしても、あまり意味はありません。
従って、著者は「パイそのもの」を大きくすることを主張されています。
つまり、株主の代理人として、「効率指標のROE」を重視するよりも、
「需要指標の売上」の必要性を唱えられています。そのためには、
- 「日銀の金融政策」
- 「金融当局の通貨政策」
- 「政府の人口政策」
などの「見えやすいはけ口」に解決方法を見出すのではなく、
それぞれ、「自分の頭で考えて見えるようにすることの必要性」が説かれています。
そういうと、何か怪しげな精神論に聞こえますが、著者は最後に考えるときの
ポイントについても言及しています。
- 「知ること」
- 「疑うこと(好奇心を持つこと。「なぜそうなるのだろう?」)」
- 「『鳥の目』をもつこと(物事を大所から見ること)」
【関連エントリ】
外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々
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